なじらねなじょも

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地面に埋めるタイムカプセルは現実的ではありません。では、仮想空間にタイムカプセルを埋めることは現実的でしょうか?

他の回答者の方がおっしゃる通りの側面もあるのですが、私は仮想空間にタイム カプセルを埋めることは現実的であり、かつ既に実現されていることだと思っています。夢が広がる、とても素敵な質問ありがとうございます。詳細を説明する前段階としてタイム カプセルの目的とデジタル アーカイブという概念について説明させてください。

タイム カプセルは、そもそも何のためにあるのでしょう?

定義的には、カプセル状の容器にその時代のものを入れて地中に埋め、ある年月が経った後に開けるものとあります。(Wikipedia 参照) では、何のためにカプセル状の容器を地中に埋めるのでしょうか。

私は、タイム カプセルの目的は掘り出して容器開けたときに再び表れる内容物(モノ)から、͡コトを想起させることだと思っています。個人のモノであれば、埋めた手紙や玩具を見て「当時はこんな事を考えていたな、こんなものを大事にしていたな」と感慨深げに思い返すことができます。企業創業時に埋めた名簿や記念品であれば「創業者は企業理念をこのような形で残してくれたんだ」と長く続く自社の歴史を辿る手掛かりになりそうです。

つまり、タイム カプセルの目的は、埋めたモノ自体ではなく、そこから想起されるコトなのです。内容物自体に価値があることを目的としていないことは、現金やロレックスの腕時計など資産価値のある貴重品をタイム カプセルに入れないことからも推測できます。

デジタル アーカイブという概念

VRコンテンツにはデジタル アーカイブという概念があります。(参考: 日本バーチャルリアリティ学会 編・発行 バーチャルリアリティ学)

デジタル アーカイブ (digital archive) とは、文化財をデジタル化することによって、実物によるアーカイブを超えたさまざまな利活用を行う概念です。対象となる文化財は、美術品・工芸品。建造物・遺跡・古文書など形のあるもの(有形文化財)に留まらず、演劇・音楽・芸能・技能など形のないもの(無形文化財)に至るまで多岐に渡ります。デジタル化することの利点としては、オリジナルに直接アクセスする頻度を減らすことで、劣化や破損のリスクが高い文化財を適切に保護しつつ、さまざまな表現手段によってデジタル情報をコンテンツ化し、活用できるようになることです。

タイム カプセルの目的が、『年月が経った後モノを通して想起するコト』であるならば、デジタル アーカイブは十二分にその目的を果たすことができる包括的な概念です。

なぜならば、デジタル アーカイブされた過去の文化財を仮想空間に再現しVRで体験することは、モノを通して想起するコトを実現できるからです。

仮想空間にタイムカプセルを埋めることについて

ご質問者が「地面に埋めるカプセルは現実的ではない」と捉えているのは、埋めた内容物の保存状態が水の侵入や排熱の失敗などの要因によって破損・汚損することを示唆しているからではないでしょうか。その他の問題として、地中に埋めたタイム カプセルの長期的な管理や盗掘リスクもあるため、現実的でないとおっしゃっているかと思います。

ではデジタル アーカイブという仮想空間におけるタイム カプセルに管理や盗難リスクが無いかというと、そんなことはありません。提供サービスの終了や、利用IDとパスワードの流出によるデジタル データの盗難問題などは十分考えられます。しかしながら、それらの問題は現実世界の地中に埋めたタイム カプセルで指摘されている管理や盗掘と同種のリスクなので、仮想空間におけるタイム カプセルの現実性を否定する要素にはならない、と私は考えています。

むしろ、エントロピーの増大が避けられないアトム (原子で構成される物質)からビット(二進数で表されたデジタル データ)でアーカイブすることにより、タイム カプセルの内容物の大きな問題点である破損・汚損から守ることができます。

既に実現できている仮想空間上のデジタル アーカイブ (タイム カプセル)

実は、デジタル アーカイブVR に限った概念ではありません。国立公文書館デジタルアーカイブというサイトでは、インターネットを通じて、「いつでも、どこでも、だれでも、自由に、無料で」、公文書や重要文化財等のデジタル画像等の「閲覧、印刷、ダウンロード」が可能なインターネットサービスであり、これもデジタル アーカイブの一種です。

そして、仮想空間というのは、VR 状の仮想空間のことを示すこともありますが、所謂サイバースペース (仮想空間) は、コンピュータやネットワークの中に広がるデータ領域を、多数の利用者が自由に情報を流したり情報を得たりすることが出来る仮想的な空間のことを指します。

つまり、上述した国立公文書館デジタルアーカイブは、まさに仮想空間上にある実現されている現実的なタイム カプセルと言えるかと思います。

補足: VR により拡張される未来のデジタル アーカイブ

VR の観点から一つ補足させてください。

上述した通り、 デジタル アーカイブ文化財をデジタル化することです。そしてその対象となる文化財には、有形文化財の他に演劇・音楽・芸能・技能など形のない無形文化財も含まれます。

バーチャル リアリティ (VR) は、コンピューターによって作り出された世界である人工環境・サイバースペースを現実として知覚・体験させる技術です。つまり、デジタル アーカイブされた無形文化財を体験することができるのです。

最近ニュースのあった VR無形文化財のデジタル アーカイブの一例を挙げます。タイム誌はキング牧師による歴史的なスピーチをVRで再現した作品「The March」を今後公開すると発表しました。この作品は、フォトグラメトリー、モーションキャプチャー、3Dアニメーションにより、歴史を蘇らせるプロジェクトとのことです。

おそらく、この作品は VR ヘッドセットを被ると、1963年8月28日のリンカーン記念堂前に集う群衆の1人として、キング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの人種差別の撤廃を求めた「I Have a Dream(私には夢がある)」の演説を体験できるのだと思います。時間や空間を超えるコンテンツです。

無形文化財のようなモノが無いものは通常のタイム カプセルには入れられません。地中に埋めるタイム カプセルではモノを通して過去の思いを想起することが最大限できることです。

ところが、VRによるタイム カプセルは時間や空間さえもカプセルに閉じ込め、時空を超えた体験、すなわちタイム トラベルができる余地すらあるのです。

VRには夢があるんです、まるでキング牧師のように。(VR has a dream like Martin Luther King, Jr.)

https://www.youtube.com/watch?v=eQ6q2cnVXqQ